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開放型平面磁気駆動ヘッドフォン D8000

by 橋本 尚久

前回は米国Acoustic Research社製の開放型平面磁気駆動型ヘッドフォン・ AR-H1の紹介をしましたが、今回は日本のS’NEXT株式会社製の開放型平面磁気駆動型ヘッドフォンであるfinal D8000の紹介をしたいと思います。なお、写真の一部や図はD8000の公式ホームページからです。

外観

上記は外箱写真で、この中にヘッドフォンと専用スタンド、3.5mmミニプラグ(1.5m)と6.3mm標準プラグ(3m)のケーブルが入っています。SONYのMDR-Z1RやbeyerdynamicのT 1 2nd Generationの外箱と比べると意外にコンパクトです。個人的にはまず使うことが無い大きくて立派なハードケースが付くよりは、実用的なヘッドフォンスタンドが付く方が何倍も良いので、これは正直有り難かったです。

上はその外箱を開封した写真で、ヘッドフォンが輸送中に傷つかないよう、厳重に何重にも折り込まれた段ボールと緩衝剤で保護されていました。この段ボールの組み方が複雑で折り紙のように何重にも折り込まれてヘッドフォンとスタンドとケーブルが格納されていましたので、ヘッドフォンとスタンドとケーブルを取り出した後段ボールを元通りにすることが出来なかったくらいでした(適当にたたんで押し込みました😅)。

上の写真が専用スタンドにD8000を載せた状態で、スタンドもアルミ合金製で重量もあり、大変しっかりした作りになっています。よくあるヘッドバンド部分に引っ掛けるタイプではなく、ヘッドフォンの左右で固定するD8000専用スタンドで、とても安定感があります。

上は拡大した写真で、ヘッドフォン自体は重量523gありますが、着けてみると思ったほど重くはなく、通気性が高く、着け心地も柔らかいイヤーパッドのためか快適で装着性も良いです。圧迫感がなく、側圧も適度で、専用に開発された通気性の良い柔らかいイヤーパッドが大変効いているようです。音が良いのも大事ですが、ヘッドフォンは装着性の良さも大事です😉

ハウジングはアルミとマグネシウム合金切削筐体で剛性が極めて高く、質実剛健で音質最優先のデザインがかえって好印象です🎵

このハウジング部分には高級カメラにも使われているレザー塗装仕上げがされており、傷付き防止だけでなく微細な振動への対策にもなっているそうです。銀色の円形の薄いアルミパネル部分には写真ではちょっと分かりにくいかもですが、通気のための細かい穴が開けられており、ハウジング部分も含めて外から見ても分かるほどの匠のものづくりで、一切の妥協を感じさせない出来です。なお、D8000は日本国内(川崎市)で生産されています。後で書くように振動板やそれをダンピングする機構も重要なのですが、大事な振動板を格納するハウジング部分の精緻極まりない作りも、デザインだけでなく良い音を出すために大いに貢献していると思います。なお、銀色のパネルは大変薄く作られており、取扱説明書にもこの部分は傷ついたり凹んだりしやすいので取り扱いに注意するよう書かれています。

新機構・Air Film Damping System (AFDS)について

このヘッドフォンの振動板は12μmと薄いフィルム状の振動板にまんべんなく薄く全体に蒸着したアルミ箔の不要部分を薬品で溶かすエッチングという方法で作り出した同心円状のコイルから成っており、それを両面から強力な円形のネオジム磁石で挟み込んだ構造の磁気平面駆動方式と言われるヘッドフォンです。

上は振動板の写真で薄くエッチングされた同心円状のコイルが見えます。

このヘッドフォンが凄いところはただ振動板を磁石で挟み込んでいるだけではなく、振動板と表と裏の磁石との間に薄く非常に細かい穴をあけたパンチングメタルパネルを入れていることです。これを同社ではAir Film Damping System (AFDS)と呼んでおり、D8000独自の構造となっています。

平面駆動式のヘッドフォンの問題点として、大きい信号が入ってきたとき振動板が大きく震えて磁石に当たってしまうという問題があり、そのため振動板を自由に前後に動かせるダイナミック型ヘッドフォンと比べて特に低域や低域の量感が不足し易いということがありました。このため振動板が磁石に当たらないようにわざと厚めにしたり、ピンと強く振動板を張ることで磁石に当たらないようにこれまでの平面駆動方式ヘッドフォンでは対策していましたが、振動板を重く動かしにくくすると高域特性が悪くなったり、それを改善するために強く振動板を張ると今度は低域が出なくなったりするので、イヤーパッドを密閉性の高いものにして低域が外に逃げないように対策したりとなかなか一筋縄では行かない部分がありました。平面駆動式ヘッドフォンでヘッドフォン自体が異様に大きくなったり重くなったりするのはこういう問題があったためです。

D8000ではこの問題を根本的に解決するために、振動板が大きく振動しようとしても磁石と振動板の間に設けられたパンチングメタルパネルをくぐり抜けようとする空気の摩擦で振動板が磁石に当たらないようにすることが可能になりました。こうすることで、低域の表現や量感がダイナミック型ヘッドフォンに勝るとも劣らない程になり、ゴツいイヤーパッドで両耳を被って低域を逃げないようにしなくても軽くて通気性の良いイヤーパッドで済んでいます。このことが玉突き的に開放感、音の抜けの良さに繋がり、また装着感の良さにも繋がっています。振動板自体の制限が原理的に無くなったことで高域特性の良さは平面駆動方式ヘッドフォンの良さを引き継ぎ、低域特性を改善でき、言わば高域特性や解像度の高い平面駆動方式ヘッドフォンの長所と低域特性に優れて量感があるダイナミック型ヘッドフォンの良いとこ取りをした画期的なヘッドフォンであると言えます。

音質レビュー

試聴はA&ultima SP1000 CP、Hugo2の組み合わせで行いました。一言で言って...

『凄い❗️』です✨✨

基本的に平面駆動型の特徴が出ていて音の解像度が非常に高く音のキレも極めて良好ですが、低域から高域までバランス良く、どこかの帯域が強調された感じはありません。開放型の利点が良く出ていて音抜けが大変良く、音場は広く感じられ、ボーカルがどこで歌っていて、どこにどんな楽器が鳴っているかなどの定位感も見事で、音の鳴り始めから鳴り終わりもしっかりと描出できており、ホールやスタジオの空気感までもが感じられます。きらびやかな高域もしっかりと描いているにも関わらず耳に刺さりませんし、ボーカルは遠くならず魅力的で、背後の楽器演奏も埋もれずリアルです。D8000専用に開発された通気性が良く圧迫感のないイヤーパッドのおかげか装着感も良好で、高解像度ながらもナチュラルで聞き疲れしない優れた音質も手伝って、長時間装着しても疲れを感じず音楽鑑賞を楽しむことができます。

特筆すべきは低域の表現力で、ダイナミック型も含めて今までのどのヘッドフォンよりも低音の沈み込みと制動が効いている気がします。ここまで良質な低域を出せるヘッドフォンは他にはちょっと思いつかないです。これが新機構のAFDS(エアフィルムダンピングシステム)の効果なのでしょう。

ヘッドフォンの持つ基本的な物理的な特性を極限まで高めたとのことで、音源の持つ情報をそのまま耳に届けてくれるイメージで、ノイズフロアが低く音楽波形の再現力に優れ、ヘッドフォンの駆動力に優れたHugo2と歪みの極めて少ない音楽信号を忠実に音波に変えるD8000との相性は抜群でした🎵✨。

考えてみれば、正確な音を出すためにD/A変換精度とノイズ対策、アンプの駆動力を徹底したというHugo2と、ヘッドフォンとしての根本的な基本性能を極めたという点で設計思想がHugo2とD8000では共通しています。

ヘッドフォン史に残る新たなリファレンス機種

このヘッドフォンは振動板を大きく動かせない平面駆動型の欠点をAFDSという技術で克服した画期的なヘッドフォンであると思います。それ以外にも振動板にコイルを接着剤で貼り付けるのではなく、真空蒸着とエッチングという方法で音質に影響のある接着剤を不要にしているのと、磁力を高めるための金属部品を排して構造をシンプルにしていること、剛性の高いアルミ・マグネシウム合金切削筐体、通気性の高いイヤーパッドなど、AFDS以外の高い技術も見逃せません。物理特性を良くすれば構造がシンプルになり必ず良い音を出せるはずという開発者の思いと技術が日本のものづくりの力で実現した歴史に残る素晴らしいヘッドフォンであると思います。このD8000をベースにして振動板サイズを一回り小さくした下位機種も計画されているそうなので、今後の開発にも大いに期待したいですね✨

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橋本 尚久
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